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9月3日、南岳と南岳小屋のご紹介

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ここしばらく秋雨前線の影響で雨や霧の愚図ついた天気が1週間ほど続いていましたが、今日はやや回復。

男子スタッフが久しぶりに外へ出かけた際の中岳からの写真をご紹介。

ただ、明日は台風の影響が心配ですね、ヤマテンさんの予報では明日の午後6時の予想風速が49m/sなどと言う、見たこともないような数値が出されています。瞬間的には60m/sくらいの猛烈な暴風が吹き荒れそうで、登山道では倒木や、小屋も屋根や周囲のモノが壊れるような被害が出るかもしれません。できれば安全な場所へ避難したいところですが、立場上、そうもいかないか…

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さて、今日は皆さんが知っていそうで知らないような南岳や南岳小屋のお話しでも…

と言うのも、明日の午後にラジオでしゃべることになっているのですが、昨年までも夏から秋にかけては北アルプスの各山小屋から2~3分しゃべるような番組がありました。それが少し番組構成が変わり、放送回数が減った分、一回で10分ほどもしゃべらなきゃならないということを聞き、話しを円滑に進めるには山や小屋のことをアナウンサー(キャスター? パーソナリティ?)さんに知ってもらうついでに皆さんにも改めてご紹介ということで、こんなブログを作ってみました。

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こちらは常念岳から見た槍ヶ岳などの山並みです。

槍ヶ岳から始まる山並みが大喰岳・中岳と

小さな起伏を繰り返し、大キレットへと

落ち込む直前の南北に長い山体が南岳です。

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南岳は標高3033m、日本国内で18番目の標高を誇り、北アルプスでは8番目の高峰です。

ちなみに、槍ヶ岳は3180m国内5位、大喰岳3101m国内10位、中岳3084m国内12位と槍から南岳まで3時間ほど歩くだけで、4つの3000m峰をつなげることで人気の縦走路となっています。

槍から南岳まで、比較的小さな起伏が続いていたのが南岳から一気に落ち込み、大キレットが始まります。

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キレットとは漢字で書くと「切戸」。

山並みが一気に深く切れ落ちた地形をそう呼び、他にも白馬岳~唐松岳間の不帰のキレット、五竜岳~鹿島槍間のハ峰キレット、八ヶ岳の赤岳~権現岳間のキレットなどいくつもある「キレット」の中で最大規模のものがここ大キレット。

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南岳小屋を訪れる登山者(小屋泊、テント泊、休憩…)のうち、おそらく8割の人は大キレットを目指す人、大キレットを越えてきた人、つまり南岳小屋は大キレットのための山小屋と言えるでしょう。

その大キレット、国内屈指の岩稜ルートとしても有名で、言うまでもなく難コースです。北アルプスは初めてなんていう山登りの初心者が行ける場所ではありません。

槍にも登った!奥穂も前穂も北穂も登った!!そんな経験豊富な登山者が次のステップとして目指すのがここ大キレットです。登山者の声に耳を傾けていると、かなりの緊張や決意をもってこの大キレットに挑もうとしている心意気が伝わってきます。

そんな大キレットのコースについては7月20日のブログで詳しく紹介していますので、そちらも御覧ください。

/archives/minamidake/blog/2018/07/post-865.html

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さて、槍穂高連峰の稜線には槍ヶ岳山荘、南岳小屋、北穂高小屋、穂高岳山荘、西穂山荘と5つの山小屋があります。西穂山荘はロープウェイが利用でき、標高も2365mと比較的低く、アプローチも容易ですが、それ以外の山小屋はどれも標高3000m内外の高所に位置し、上高地や新穂高温泉などの登山口からも7~9時間くらいかかるなど、訪れるだけでも大変な山の上にあります。

槍穂に通い慣れた人であれば一日で到達することもできますが、多くの方は槍沢や涸沢、岳沢と言った中腹の山小屋で一泊してから稜線の小屋まで来られるのが一般的です。

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そんな槍穂高連峰の特徴であり魅力の一つが氷河地形。登山ルートとなっている槍沢も涸沢も岳沢も5万年前と2万年前の氷河期に形成された氷河地形です。

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氷河圏谷である涸沢カール、

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氷食谷の槍沢のU字谷、

5万年前には槍沢の氷河は一ノ俣付近まで、本谷や涸沢の氷河は横尾岩小屋付近まで、岳沢の氷河は上高地まで流下していたと言われます。もっとも厚い場所では氷河の厚さが150mもあったそうです。マイムマシーンがあるなら、そんな時代に蝶ヶ岳から槍穂高の氷河を眺めてみたいものです。

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槍ヶ岳を投影する氷河公園の天狗池、上高地から槍沢を経由して南岳まで登る途中・標高2500m付近にある池ですが、これも氷河地形。

2万年前、氷河が押し出した岩石や土砂によってできた窪みに今では水が溜まって池となっているのです。また、天狗池の近くには氷河擦痕と言って、氷河の底にあった石などが、氷河の重みと流下する圧力で地盤を形成する岩石に擦り傷を付けたあとなども見られます。

などなど数えあげればキリがないくらい氷河時代の痕跡を楽しめるのも槍穂高に特徴ですが、これ以上はあまりにもマニアックになるので、このくらいで止めておきます(笑)

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こちらは大キレットの底から見上げた南岳。

南岳は非対称山稜と言われ、南面と東面は氷河に削られて断崖を形成していますが(あ、また氷河の話しを…)、西面と北面はなだらかな山体を形成しています。

大キレットからこの標高差250mの岩場をハシゴやクサリでよじ登り、最後の岩場を越えると…

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険しい岩場から一変してなだらかな山と南岳小屋が目に飛び込んできます。たいていの人はこの景色の変化に驚かれるようですが、これこそが南岳の特徴。槍穂の稜線にあって広いテント場を提供し、いろいろな景色を楽しみながら散歩できるのが南岳小屋の売りでもあります。

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では、なんでこんな劇的に地形が変わるかというと、氷河時代をさらに遡ること600万年前。槍穂高のベースを形成する火山活動があり、その際にできた溶結凝灰岩と礫岩が…

これ以上はさらにマニアックになるので、詳しくは信州大学の原山智先生の「超火山槍穂高」と言う本で勉強してください(笑)

「超火山槍穂高」の画像検索結果

南岳ってそんな山なんですよ、というところでそろそろ消灯時間となりました。

あさって、小屋が台風に耐えて無事であれば、またブログを更新いたします。

更新がなかったら、小屋が壊れたと思ってください。今回の台風は本気でやばいかもしれません…