2018/07/18
南岳に至るバリエーションルートのひとつ、本谷コース。
通る人はごくごくわずか、一年間に50~100人程度という極めて人の通らないルートでありますが、たまに問い合わせなどもあるので、先の大雨による影響等を見に行ってきました。
影響は一言で言うと「土石流により、少し沢の様相が変わった」ですね。
もともと、道というものがあったわけでもなく、適当に沢沿いを歩いて登るルートでしたので、大きな影響があるわけではありません。ただ、何度も通っているような本谷マニアやガイドさんには「あれ!?」と思う部分が多いかもしれません。歩きにくくなったところ、土砂が堆積してかえって歩き易くなったところなどいろいろです。全体としては、堆積した土砂により全体に浮石が増えたというのが一番の影響でしょうか。
さて、本谷というのは横尾から涸沢へ向かう途中、本谷橋を渡らずに、そのまま沢沿いを登って南岳を源頭とする横尾本谷を詰めて行くコースです。
数年に一度くらいは山岳雑誌で紹介されることもありますが、基本的には超マイナールート。同じ槍穂高のバリエーションルートである北鎌尾根や前穂北尾根、北穂東稜などと比べても認知度も利用者も数字の桁が二つくらい少ないルートです。それゆえ、槍穂の最後の秘境ともいうべき、静かな登山が楽しめる場所でもあります。
涸沢へ向かう途中、本谷橋を渡ってしばらく登ると、その横尾本谷の全景が見渡せる場所があります(↑)。開発の進んだ槍穂において、原始の姿を残す楽園、熊とカモシカの楽園です。
本谷橋からはこんな感じや
こんな感じの河原を歩きます。
ただ、場所によっては川幅が狭くて高巻きをしなければいけないところや、対岸へ石を飛んで渡らなければならない場所が随所に出てきます。
この本谷コース全体に言えることですが、地形図をしっかり読めて、且つ、ルートファインディング能力に優れた人、運動能力に優れた人でなければ登れないでしょう。
山の中で「◎◎山に行くのはこっちで大丈夫ですか?」、「△?まではあとどれくらいですか?」、「☆★って私でも行けますか?」なんてことを人に聞くような人では絶対に無理ですね。
道はなくても自分の判断で登れる、動けるレベルの高い登山者向きのコースです。
本谷橋から約1時間半の河原歩きで、二俣に到着。
谷はここで右俣と左俣に分かれます。
右俣から横尾尾根のコルを目指すルートの方が利用者は多いですが、今回は左俣にまだ雪渓が長く残っていたので、そっちのほうがアイゼンを装着すれば楽に登れるので左俣をチョイスしました。
なお、左俣は雪が解けると谷の様相は大きな岩がゴロゴロ転がり非常に歩き辛い谷に変身します。雪を利用して登れるのは8月初旬まで。それ以降は雪渓がズタズタに割れてきて、しばらくは通行できなくなります。(9月に入れば、雪も全部解けて、岩で歩きにくいですが通れるようにはなります)
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そして、この本谷左俣の最大の売りは、この北穂池の滝。
落差は150mに及び、槍穂高山中で最大の滝であるとともに、標高2450mという高所から落下する滝としては国内屈指の規模ではないでしょうか。
南岳小屋からも遠くにこの滝を見ることができますが、間近に感じるにはこの時期にこの場所にくるしかないでしょう。
そして狭い左俣のゴルジュ帯を抜けると大キレットカールの底に到達。
一気に空が広くなり、カール(氷河圏谷)の緩やかな斜面の先には南岳・獅子鼻の岩峰群がそそり立つ姿は、ノッペリとした印象の強い南岳の別な一面を見せてくれます。
また、カールの底のお花畑には雪が解けた場所から次々に花が咲き始め、今は今年が当たり年のコバイケイソウやシナノキンバイ、クロユリなどがきれいに咲き誇っていました。
カールの底から大キレットの稜線に登る最後の急坂はかなりの急傾斜で骨が折れますが、登り切ってしまえばあとは快適な登山道です。難所・大キレットの登山道でさえ、道なき本谷を登ってきた人には「快適!」と感じられることでしょう。ただ、横尾からすでに標高差で1100mを登っており、しかも難ルートですからすでに身体はクタクタ…
ここから南岳への標高差300m分の登りはきっと身体に堪えることでしょう。
こんな本谷、この週末も天気が良さそうですから、腕と脚と技量に自信のある上級者の方はぜひ土日の一泊二日で楽しんでみてください。
ただ、くれぐれも中級者以下の方は立ち入らないようご注意ください。
大キレットの現地情報は近いうちに取材に行ければいいなと思っています。
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