2018/06/07
2010年の岳沢小屋開業以来、小屋の責任者を務めておりました坂本と申します。
このたび、8年余りの任を終え、岳沢小屋を離れることとなり、これまでご利用いただいた登山者の皆さま、上高地区の皆さま、近隣山小屋の皆さま、関係業者や関係機関の皆さま、そして同僚の皆さまに改めて御礼申し上げます。
振り返れば、小屋再建の許認可が下り、基礎工事の始まった2009年10月以来、足掛け10年間、この小屋にはお世話になったことになります。
ただ、さらに時を戻すと、2006年の年初に「岳沢ヒュッテが雪崩でやられたらしい…」という話しや、続けて4月に岳沢ヒュッテのオーナーであった上條岳人さんの交通事故による突然の訃報などを、同じ地区の山小屋の人間として、たいへんなことになったとは感じつつも、“でも、自分とは直接関係することのない出来事”と思っていた自分がまさかこのような任を受けるとは思いもよりませんでした。
そして、小屋の建設のための除雪から作業の始まった2010年4月。
建設工事の始まった2010年5月。
最低限の設備・宿泊定員30人で営業を開始した2010年7月
その後もテラス棟の増設や、常設宿泊棟の建設などが続いた2011年、2012年。3年かけて、ようやく今の姿に落ち着き、収容60名と小規模ながら、営業小屋としての形が完成しました。
小屋建設のための資材や道具、営業を行うための鍋や食器、備品の鉛筆一本さえ無いゼロからのスタート。ハード面だけではなく、どういう形で営業を、どんな形で運営をしていくかも決まっていない、ソフト面においてもゼロからのスタートで、試行錯誤の中、述べ10年間を過ごして参りました。
ここ数年は利用者も増え、穂高岳登山の拠点としてだけではなく、上高地から見える穂高岳の中腹に「岳沢小屋という山小屋があるから、そこまで行ってみよう」という家族連れや外国人のハイカーも増えています。
今では「岳沢ヒュッテ」があったということさえ知らない登山者も多く、この地に山小屋が無かった空白の時間を越え、「あそこへ行けば山小屋がある」とその存在が認知されてきたことが何よりうれしいことであります。
おかげさまで後任を任せられる人材も育ち、夏の繁忙期を支えてくれる女子スタッフも定着してくれ、加えて新たな戦力も加わり、ここが一つの区切りになるかな…と。
個人的にも、小屋の運営が安定してきてちょっと刺激が少なくなってきたこと、以前の3000mの山の上での雲上の生活にまだ未練があったこと、
また、古巣の南岳小屋の後任だった責任者が昨夏に突然山を下り、昨シーズンの南岳小屋が宙ぶらりんの状態になっていたこと。3年前に亡くなった故・沖田昭三氏が私財を投じて建てた南岳小屋、その山小屋を大切に大切に使っていた沖田爺の意思を引き継ぐ人間が今となっては他にはいない状況、などなどから、今、自分が南岳小屋に戻る時期かなと思い至り、今月下旬からは南岳小屋へ戻ることとなりました。
ただ、今となっては岳沢小屋を離れることへの未練が大きいのも事実。
居心地の良いこの岳沢小屋にもう少しいたかったという気持ちが偽らざるところです。
ただ、そのあたりは今後、岳沢を訪れる登山者に楽しんでいただくとして、これからは南岳小屋を訪れる登山者のために居心地の良い空間を提供できるよう頑張っていこうと思います。
とはいえ、来年以降も小屋開けからの一カ月半は小屋の雪堀りと春期営業のスタッフとして岳沢小屋で皆さんのお出かけをお待ちしております。
完全にさようならをするわけではありませんが、これまでの8年と一カ月半、どうもありがとうございました。どうぞ、こらからも岳沢で、穂高で、槍で、南岳で、大キレットで、安全に登山を楽しんでください。
小屋再建の2010年以来、 明日から小池・坂本は大天井ヒュッテの |