2018/07/31
番外編、あるいは駄文です。
誤解を恐れず言えば、山小屋の物価って少し高いでしょうか?
例えば北アの平均相場として、だいたい一泊二食で10000円弱と思われます。
下界の民宿の素泊まりなんかで2500円とか平気でありますもんね。
(昔、京都のゲストハウスで玄関で寝てもいいなら1000円とかはありましたけど)
昨今のテン泊人口の増加の原因は、装備の軽量化や、山が多角面の楽しみ方を持つカルチャーとして比較的体力のある若年層にも再認識された、だけに始まる話しではないと思います。担げる元気があるから全部背負って節約しようという心理は大いに理解できます。楽しいですもんね。
ウチの小屋では一泊二食で9800円とっております。
もちろんその値に見合うサービスを、とスタッフ一丸となり努力しておりますが、この際高いか安いかは別として、そもそも物資全てにどうしても避けられないコストがかかるのです。
最たる理由は輸送手段です。
ご存知の方も多いと思われますが、北アから職業としてのボッカが姿を消して半世紀以上経つそうです。
山岳地帯におけるヘリコプターによる物資輸送が実用化されたからです。
不安定な天候や気流に対応せねばならない航空会社の苦労に目をつむらせてもらえば、1回の飛行で数百kgの荷揚げが、長くても往復15分程で完了するヘリは単純な輸送可能な物量の多さや、その輸送時間の短さから管理に気を使うような食品の鮮度を保てるコト、さらに人力では運べないガサの大きい特殊な機材等を運べるなど、利点は数えきれず、
ここで述べる事はできませんが、kgいくらいくらの、安くない重量相場を費やしてでもヘリに頼るメリットの方が大きいのです。
これらの輸送コストが北アの物価にそのまま反映されており、これ以上下げると、ペイできないのです。
さて実際にどのように、行われているかというと
1行でまとめれば北ア某所のヘリポートに物資を集積させれば航空会社の方々が小屋までバンバン揚げてくれる。
だけなのですがその前中後にあらゆる苦労が付きまとうのです(笑)
まず、従事する人間(通称ヘリ番)は天候問わず各々の所属する小屋から降りて松本へ向かいます。
ちなみにヘリ番の選抜基準は特になく、ひょっとすればその小屋の余剰人員?(怖くて聞けない)
ちなみに自分が始めて着任するにあたり、当時の先輩からは
『ヘリ番なんて簡単だ。MT免許と足し算が出来ればいい』
たしかそんな的確なアドバイスを賜り、現場に放り込まれました。
そして松本についた着いた先であらかじめ事務所に集積されたトン単位の荷を計量し、トラックに積み込み、大まかな段取りを協議し、下準備とします。
この際大事なのは、荷を作る順番などを細かく全てを決めずに、物量を量る程度にして留めておくことです。
大抵当日になんらかの事象が発生し、計画どうりにいった試しがないからです笑
翌早朝に出発し、ヘリポートへ向かいます。
終始山岳路線の登坂になるので、トラックの運転はかなり緊張します。
現場へ着くと、ドタバタ劇場が始まります。
直前に各小屋へ天候状況を訪ね、問題が無ければ、すぐさま荷を作ります。
やり方は至って簡単。
航空会社の資材である太い綱で編まれたネット(通称モッコ)を広げ、数多の荷入りダンボールを積み上げ、500~550kgの立方体を作り、モッコを包んで完成。
コレを永遠と繰り返す。
ミソは重すぎはもちろん、軽すぎてもダメであるコト。
ずばり前者は物理的な問題で、後者は航空会社の仕事にならないからである。
また、全てが、ただの荷ならばそこまで大変ではない。ヘリ番最大の課題はコレに人間の輸送(人送)や生鮮食品などが絡んでくることにあります。
人送は小屋の修繕目的の職人さんや、さまざまな技師の方を揚げるだけなのでヘリポートに時間通りに来てくれさえすればなんら問題なく輸送してもらえる。無論、機内サービスなどはありません(笑)
問題は品質に管理の必要な冷凍食品や、野菜。
鮮度が命のこれらは、炎天下に野ざらしになんてできるワケがなく、可能な限り直前まで、ヘリポートまで配送に来てくれる業者さんらの保冷車内で待機させておくのですが、割といつくるかわからない飛ばすタイミング(言うなれば航空会社からのゴーサイン)に即時対応できるように、業者さんらと示し合わせておかねばなりません。
さらに管理と言えば、従事するヘリ番の体調管理も大事。
朝のひんやりと清々しいヘリポートは、日中は炎天下の灼熱へと豹変する。日射をたんまり蓄熱したアスファルトは冗談抜きに卵を美味しく焼けそうだし、鉄芯入りの安全靴なんかで闊歩すれば指先が火傷しそうになります。
そんな環境下でトン単位の荷を手で積み、手で降ろし、手で運ぶ。
こまめな水分補給を怠ることは仕事の放棄と同義です。
昼下がりにもなればいよいよ荷揚げも佳境に。
徐々に150kg+250kgなんかが瞬時に弾けなくなるほど頭が鈍くなっていき、かろうじて義務感のみよって動く身体も緩慢になります(笑)
夕方近くになり、優先順位の低い燃料便も終われば大抵は終了。ニュアンス的に終戦の方がシックリきます。
夕日に染まった山肌がヘリ番をねぎらってくれますが、率直な心境でいえば、遠い目をしながら
『もうヘリのエンジン音を聞かなくて済むんだ・・』
この安堵に尽きます(笑)
達成感は松本への帰りの車内、だいたい沢渡を過ぎたあたりから徐々にやってきて、仲間と祝杯を上げる頃には確かな実感となります。
ちなみに生ジョッキを飲み干すと、とたんにマブタが落っこちてきて、みな無口になります(笑)
そして翌朝早くに、いそいそと各々のホームへ帰っていくのです。
そんでもって新人のバイトさんに『新人ですか?』なんていわれるオチがつき、幕が閉じるのです。
以上が誰も知らないヘリ番の仕事です。
ひとつ、非常に面白いのがヘリポートで従事するのは僕らの会社だけでなく、この界隈の小屋の方々や付き合いの長いかくこ業者さんらが集まり、みんなで協力しほぼ全ての作業を手伝い合う方式を取っていることです。
現場の雰囲気はいたって和やかで、特殊な形状ゆえに荷づくりが困難な時など、皆で意見を出し合い、知恵を貸しくれたり、昼の弁当なども皆で車座になり食べます。
時おり花咲く同業者トークはハチャメチャな現場における数少ない清涼剤でして。
本来ならば他社であるにも関わらず、全小屋のヘリ番が顔馴染みのヘリポートを、僕は時おり共同体のように思えてしまいます。
絶対に失敗が許されない胃が痛むようなプレッシャーゆえ、着任当初はヘリ番が嫌で仕方なかったのですが、今では楽しくて仕方がなくなり、愛してやまない小屋番の仕事の一つとなりました。
これからも誠心誠意励んで行こうと思います。
長々と失礼致しました。
以上肥沼でした。